Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
シューベルトと夏の宝探し《2》
教会の裏にあるちいさな墓地に、夫の骨は納められた。
天気は快晴。爽やかな風が喪服のスカートを揺らしていた。
――そんな空模様とは裏腹に、わたしの心は荒ぶっていたけれど。
* * *
「遺産分割協議を行う必要はないんじゃなかったのか」
「法定相続分に限りましては現時点ではそのとおりです」
「現時点、か。……添田。お前はまだ、何か隠し事をしているか」
「いいえ。ですが、雲野さまのご子息が直接乗り込んでこられるとは想定外でした」
教会からの帰りもタクシーを利用したが、朝のようにアキフミと会話をする余裕もなく、お互い黙り込んだまま屋敷まで到着してしまった。留守番をしていた添田の顔を見た瞬間、アキフミが険しい顔になって、はなしはじめる。
玄関ホールではじまった遺産相続にまつわる会話に、わたしは何も言えなくなる。
「雲野ホールディングスも“星月夜のまほろば”を狙っていたんだな。だから、ネメにあんなことを……」
さらっと「俺と結婚してください」と挨拶するように求婚してきた紡のことを思い出し、わたしは複雑な気持ちになる。彼が欲しいのはわたしが受け取るであろう夫の遺産であって、わたしではない。