Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
ただ、遺言書に他の人間の名が記されていたら、遺産を相続する権利はわたし以外にも存在することになる。添田はそこにアキフミの名があるはずだと言っていたが、逆に紡の名があったら?
……法的なことはよくわからないが、添田とアキフミの話し合いはひとまず終了したらしい。わたしが心配しながらふたりの顔を見比べれば、アキフミが安心させるようにぽつりと呟く。
「あの男には絶対渡さない。この土地もピアノも……もちろんネメ、お前のこともな」
* * *
生前、夫が懇意にしていた雲野ホールディングスの社長一家……紡とその弟と両親のことだ……は、彼が死んだら自分たちが“星のまほろば”の経営を引き継ぎたいと名乗り出ていたのだという。けれど夫はわたしが路頭に迷うことを危惧して、彼らの提案に渋い顔をしていたという。
「生前贈与で手っ取り早く土地を渡していただければ良かったんでしょうけど、喜一さんは想い出の詰まった土地だから、そう簡単に手放せないと最後まで拒んだんです。ただ、ねね子さんに向けて遺言書を書いて隠しておくから、それを一緒に探してくれって言われましてね」
紡はそう言って、応接間のソファに座ってちまちまとコーヒーを飲んでいる。