Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
まるでこの屋敷の住人気取りだなと毒づくアキフミに、それは君の方じゃないの? と平然と言い返して、わたしの方へ顔を向ける。
「遺言書が見つからなかったら、どうなるんですか?」
「添田とレイヴンくんが相続人を無視したかたちで金銭のやり取りをしていることが公になったら、紫葉リゾートは大ダメージを受けるだろうね。これが喜一さんの遺言書の指示に書かれているか否かで、ネメちゃんの運命もまた変わるんじゃないかな」
「遺言書が見つかることで、紡さんに利益があるのでしょうか」
「それはわからないなぁ。けれど、遺言書の内容次第では、俺にもチャンスがあるわけです……なので俺と結婚」
「誰がさせるか!」
さくっと紡の言葉を遮って、アキフミがうんざりした表情になる。
「ネメは俺の妻になるんだ。そうすれば遺言書があろうがなかろうが問題ないだろう?」
「うわっ、レイヴンくん目が怖いよ。一歩間違えたら犯罪者まっしぐらだよ。土地とピアノだけでなく彼女も自分のものにするつもりだったなんて……やっぱり喜一さんの遺言書はあった方がいい。お前の物騒な野望を打ち砕くためにも」
「どこが物騒だ……ったく」