Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「だから土地とピアノを押さえたんだ? 親族でもないくせに」
「そういうお前だって須磨寺の事情を知らないくせに」
「俺はこれから相続人のネメちゃんと結婚するからいいの」
「だからさせねーっつってんだろ!」

 ふと、高校時代のアキフミのことを思い出してくすりと笑ってしまう。
 彼は学校で、毎日のように同級生の男子とこんな風にじゃれあっていた。ピアニストの娘と遠巻きに見られていたわたしにも隔たりなく接してくれて、嬉しかったものだ。
 あのときとは事情が異なるし、まだまだ相続にまつわる問題ははじまったばかりだけど。

「ネメ?」
「アキフミと紡さんって、仲がよろしいんですね」

 その一言で、紡がぱぁっと明るい顔をし、アキフミが対照的に心底イヤそうな顔をした。
 前言撤回。このふたり、仲が良いのか悪いのか、さっぱりわからない。
 けれど、この三人で夫の遺言書を探すのはなんだか宝探しみたいで楽しそうだな、と思いはじめた自分がいるのも事実だった。
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