Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
シューベルトと夏の宝探し《3》
遺言書の存在が明らかになって以来、週末になると東京からわざわざ紡が軽井沢まで訪れるようになっていた。アキフミは彼を煙たがったが、夫の遺言書を探し出す必要性は理解しているらしく、彼が屋敷に訪れると渋々一緒に行動するようになった。
「はじめに言っておくけどな。俺はネメと二人きりにさせたくないからお前との遺言書探しに付き合っているんだ」
「レイヴンくん、その上から目線ムカつくんですけど。俺の方が年上なのに扱い雑じゃない?」
「昔からそうだっただろ」
「うゎ。ウッドベースの兄ちゃんかっけーって目をキラキラさせてたあの男の子はどこ行ったんだい」
「知るか」
添田がふたりのやりとりを目を丸くして見つめている。旧知の仲であることをわたしが教えれば納得したのか、「仲がよろしいのですね」とわたしと殆ど変わらない反応を見せてくれた。
そんなわたしと添田のやり取りを小耳に挟んだアキフミがキッとこちらを睨みつける。ふたりに見つめられて添田は応接間から逃げるように出ていってしまった。こっそり微笑みながら。
「どこがだ! 俺はこんななよなよした男願い下げだ」
「そうだよー、まさかネメちゃん俺とレイヴンくんの仲に妬いてくれたの? 結婚したらそんなこともなくなるよ?」