Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
「お前もちゃっかり結婚前提で話を進めるな!」
「えー。こういうのは本人同士できちんと相談する必要があるだろ? レイヴンくんもネメちゃんと結婚したくて一生懸命なのはわかるよ。遺言書の有無にかかわらず、彼女は莫大な遺産を手に入れられる金の生る木だからね」
「そういう風に考える輩がいるから須磨寺は遺言書を残したんだろ。とはいえ彼女と一緒に見つけ出した奴がネメの次の結婚相手だ、とか書かれていたらたまったもんじゃないからな」
はは、と乾いた笑みを浮かべるアキフミを見て、それはそれで面白そうだねと紡が笑っていたが、ふと真面目な表情になって、わたしに説明する。
「一般的に、相続に関する手続きって故人の四十九日法要が終わったタイミングではじまることが多いんだけど、故人が亡くなったその日から動き出すことは可能なんだ。今回は喜一さんがキリスト教徒だから一ヶ月目の昇天記念日を目安に添田も遺言書の存在を明るみにしたんだと思う」
添田はわたしにそれよりも早く遺言書のことを匂わせていたけど、詳しいことはわからないままだった。アキフミも似たような状況だったのだろう、紡の説明に不服そうに頷いている。