Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「遺言書を探し出して、来年の二月末までに相続税申告を行う必要があるってことですね」
「そ。相続税の申請と納税が終わったらようやく相続財産の名義変更が可能になるんだ。その辺は税理士を雇った方が手っ取り早いから添田と相談するといいよ」
「紡さんも詳しいですね」
「入社一年目から経理部で鍛えられたからね。アキフミよりは頼りになるよ? だから俺と結婚」
「だーかーら。どうしてそうなる」

 夫がわたしに遺したものが欲しくて、紡はわたしと結婚したいなどと言っているだけだ。
 逆に、アキフミはわたしを手に入れるために土地とピアノを添田から買い取ったと言っていたけれど……紫葉リゾートの新社長である彼の立場から考えると、わたしが相続を終えてから土地だけ購入していればなんの問題もなかったはず。相続期間は被相続人の死亡した当日から十ヶ月間もあるのだから。
 信じられないことだが、アキフミはわたしを本気で囲うために、夫が死んだ翌日に土地とピアノを押さえて、わたしが逃げ出さないようにした、というのが真実らしい。逃げる場所などどこにもないのに……
 わたしが思考に耽っているあいだも、ふたりはなんやかんや言い合っている。
< 129 / 259 >

この作品をシェア

pagetop