Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
「あとでもう一度添田さんにもきいてみます。詳しいことは知らないって言っていたけれど、たぶん、わたしよりはわかっているはず」
添田はこの件に関しては自分から積極的にかかわってこない。相続人となるわたしが遺言書を見つけ出し、その内容を吟味して判断するまでは手助けしないということだろう。そのなかに、わたしの再婚相手について書かれているのかもしれない。そもそも夫を亡くした身で次の男性と結婚するつもりなんてないのに……アキフミの愛人で構わないと、そう思っていたのに。
「ネメ。俺と紡なら、俺と結婚するよな?」
「あ、ずるい。そうやって俺を諦めさせようとするー。遺言書の中身を見るまでは俺も諦めないからな」
「なんかもう……どちらとも結婚しないで済む方法を考えたい気分です」
ぎゃあぎゃあじゃれ合うように絶えず言い合いをつづけるふたりを眺めながら、わたしはぽつりと呟くのだった。