Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
「レイヴンくんが鏑木音鳴の熱狂的なファンだったってのは俺も知ってるよ。異国のパトロンに拾われたって噂にショックを受けて一時期かなり荒れていたんだよ」
「そうなのですか」
アキフミが、わたしの熱狂的なファンだった? そんなこと、ぜんぜん態度にも出さなかったくせに。
驚くわたしに、紡が悪戯っぽくつづける。
「俺はシューベルトになるんだ、ってのが学生時代の彼の口癖でね。なにがシューベルトなのかは教えてくれなかったけれど……もしかして君は知っているのかな?」
「シューベルト……」
紡はわたしとアキフミが高校時代に恋人同士だったことを知らない。
だけどシューベルトの妻になると口にしたわたしを信じて、彼はシューベルトになると周りの人間にはなしていたのかもしれない。
黙り込むわたしを見て、紡はするりと話題を変える。このひとはやさしい。言いたくないことを無理に言わせることはけしてしない、とても柔らかいひとだ。
「レイヴンくんも面白い子だよね。喜一さんが亡くなってから一緒に暮らしているネメちゃんも、そう思うだろう?」
「あ、はい」