Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「それで、ピアニストになったわたしの熱狂的なファンになったの?」
「デビューのときにシューベルトのセレナーデを弾いていただろ? それだけで天にも昇るような気持ちになった。夢を叶えて世界へ羽ばたいていくお前が眩しかったし、誇らしかった」
「でも」

「すきだ!」

 アキフミが言うわたしは、そんなにキレイなものじゃない。両親を失ってピアノが弾けなくなって山奥に逃げ出して夫に匿ってもらったわたしは、アキフミの言葉に戸惑ってしまう。
 けれど、彼はいまのわたしも含めて、すきだ、と叫ぶ。

「すきなんだよ。ずっとずっと……ずっと。華やかな世界から退いたいまも、俺の気持ちは変わらないままだ。バツがつこうがつくまいが、俺はネメを愛人止まりにさせたくない……屋敷も土地もピアノもお前もぜんぶ俺が守るから、どうか、俺との結婚を本気で考えてくれないか――……」
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