Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
ずっと狙っていたのだと言えば、納得したように立花が頷く。
「それで軽井沢に居着いてしまわれたわけですね。それほど良い音ですか」
「そりゃあ、な」
ネメを自分の手と唇で気持ちよくさせるたび、快楽に咽び泣く彼女を思い出し、口角が上がる。
何度ふれても飽きない彼女の身体を奏でることができるのは俺だけだ。他の男には渡さない。
「毎日調律して可愛がってしまうほど、いい音で啼くんだ」
ふふっ、と笑う俺を気味悪そうに見つめた立花は、呆れた顔で言い返す。
「まるで恋人みたいなことを言うのですね」
「そうだな。俺の唯一の恋人だ……愛人にしておくにはもったいない」
「?」
ピアノがですか、と首を傾げる立花に、俺は出来心で口を開く。
「――立花も今度、軽井沢の屋敷に来ればその魅力がわかるだろうよ」