Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 そんな俺と義父の様子を不安そうに見つめる無垢な瞳。女子大出身で箱入り娘の彼女は同年代の異性と親しくなる機会もなかったのだろう、俺がこの見合いに賛同していないと知って、困惑している。彼女に罪はないのだが、俺には心に決めた相手がいる。だが、この場で暴露してしまうことで、ネメの立場が悪化することだけは避けなくてはならない。だからここでは意に沿わない見合いに不貞腐れていることにして、結婚そのものを嫌がっているふうに演じることにした。

「……いまの時代、二十六歳で結婚は早いって感じるのかねぇ。わしなんか二十歳で嫁と婚約したがね」

 俺と義父のやりとりを面白そうに見つめていた多賀宮の言葉に娘も頷く。

「わたくしは、お父様がいいひとだと教えてくださったから……」
「逢ったこともないのに、いいひとだなんて買いかぶりすぎではありませんか?」
「礼文」
「まっすぐな息子さんですなぁ、章介さんよ。とても血の繋がりがないとは思えませんよ」
「そいつはどうも」

 悪気がないのはわかっているが、義父と血の繋がりがない後妻の連れ子が子会社を任されているこの状況は相手方からすれば不思議なのだろう。あわよくば娘を送り込んで裏から操ってやろうとでも考えているのだろうか。だとしたらこの親父は相当な狸だ。
< 154 / 259 >

この作品をシェア

pagetop