Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
シューベルトの妻《5》
優しい音色ね、と。
その夜、ママが誉めてくれた。
わだかまっていた氷柱が、音を立てて崩れたような気が、する。
音鳴だからできる音だと、ママが鈴を鳴らすように笑う。何があったのかしら、って悪戯っぽく。
わざと譜面に目を走らせて、知らないフリをする。だけど。
恋をしたからだよ、って。
心の中でママの背中に向けてこっそり告げる。
やっと、自分だけの音を見つけたような、そんな気が、したから。