Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
「そんなこと言わないでアキフミお兄ちゃん、軽井沢の恋人、紹介してよ! なんなら一緒に遺産探し手伝うから」
「遺産じゃない、遺言書だ……」
どこまで調べてきたのだろう、双子たちは遺言書探しも一緒にする気になっている。
たとえネメが遺産を無事に相続し、俺が彼女を妻に迎えたとしても、彼らには一銭も与えないぞ、と心に誓うのだった。
* * *
人たらしの双子の弟たちは添田をはじめとした屋敷の人間にも容易く取り入り、当たり前のようにネメも彼らの話術に飲み込まれていた。
「ずっとアキフミお兄ちゃん悩んでいたんだよ。社長の妻に貴女を迎えて大丈夫なのか、って。社長夫人になったら人前でピアノを弾く機会が増えて彼女の負担になるんじゃないか、って。だけどお見合いした生意気な女を妻にするのは耐えられない、って」
「そんなことを彼が?」
「あくまでオレたちの想像だけど」
応接間に楽しそうな声が響く。大学を卒業した双子たちも紫葉不動産のグループ会社に就職し、切磋琢磨しながら仕事に取り組んでいるという。俺の花嫁探しの話題は双子たちの会社でもたいそうな話題になっているそうだ。
「お互いに想いあっているのに、どうして一歩を踏み出さないの?」