Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
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賑やかな午前十時のティータイム。応接間にはわたしとアキフミ、社長秘書の立花とアキフミの双子の弟たちで賑わっている。添田も人懐っこい双子たちに質問攻めにされたらしく、困惑顔で客への対応をしていた。
双子から逃げるように退散した添田の次の標的になったのはわたしだ。
「ずっとアキフミお兄ちゃん悩んでいたんだよ。社長の妻に貴女を迎えて大丈夫なのか、って。社長夫人になったら人前でピアノを弾く機会が増えて彼女の負担になるんじゃないか、って。だけどお見合いした生意気な女を妻にするのは耐えられない、って」
「そんなことを彼が?」
「あくまでオレたちの想像だけど」
なんだ、想像か。と顔に出てしまったわたしを見て、ふたつの同じ顔がくすくす笑う。名前を教えてもらってもどっちがどっちなのか判断できないとわたしが匙を投げれば「アキフミお兄ちゃんの双子の弟たちでいいよ」とあっさり返されてしまった。アキフミはどっちがタカヤでどっちがフミヤか違いを理解しているらしいが、耳元のホクロの位置だと言われても初対面の人間が耳元のホクロの位置で判別するのはかなり難しいと思う……
苦笑を浮かべるわたしに、双子の片割れが心底不思議そうに呟く。
「お互いに想いあっているのに、どうして一歩を踏み出さないの?」