Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「ネメさんの相続が落ち着いたら、なんて言っていたら他の男に掻っ攫われちゃうよ、アキフミお兄ちゃん」

 彼らは紡のことも調査済みらしい。立花が「どっちが良縁かってきかれたら常識的には雲野さんです」とあっさり教えてくれたけど、わたしはつい言い返してしまった。

「わたしは紡さんとは結婚しません」
「が、社長もいい男ですよ」
「はい……わたしにはもったいないくらいです」

 その言葉にアキフミが嬉しそうな顔をしている。愛人でいいと思っていたのに、こんなにも彼に求められたら、その気持ちは揺らいでしまって当然だ。わたしがアキフミへ微笑みかければ、彼も恥ずかしそうに頷いた。

「なんだか心配して損したかも。お兄ちゃんとネメさん、ラブラブじゃない。いいなあ初恋のひととの結婚」
「彼女なら義父さんも認めてくれると思うけどなあ」

 昨晩のアキフミとのやりとりで、わたしの心は彼との結婚を夢見はじめている。
 アキフミの秘書と双子の弟たちという応援もやって来て、なんだか落ち着かない気持ちだ。
 それでも希望の光が見えてきた。
 わたしの残された課題は夫の遺言書を探し出し、なるべく早く相続の手続きを行うことと、そして、アキフミの両親や会社のひとたちに認めてもらうこと。
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