Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

シューベルトと初恋花嫁の秘密《2》




 添田に連れられてきた紡がわたしの方へ茶色い封筒を持ってくる。彼もまだ、中身を見ていないらしい。訝しそうにこちらを見るアキフミに、わたしは「戸籍謄本をもらってきてもらった」とだけ口にする。

「戸籍謄本?」
「夫とわたしが法的に婚姻関係を結んでいたかどうか、誰もきちんと調べていなかったの。婚姻届にサインしたからてっきり結婚して苗字が変わったものだと思っていたんだけど、紡さんが」
「ネメちゃんと喜一さんは事実婚の可能性が高いと思ったんだ。彼が後妻を迎えたって話は突然すぎて、うちの両親も信じられなかったんだ。ましてや祖父と孫のような年齢差だし、きっと遺産目当てだって最初は言っていた」
「紡」
「それに、いくら婚姻届を書いたからといって、証人が誰もいないのはおかしい。添田あたりが証人として書いていることも考えたけど、彼はその件については知らないって言ってた」

 紡の淡々とした説明を前に、アキフミが唖然としている。
 わたしがそもそも法的に結婚をしていなかったなど、考えてもいなかったのだろう。わたしだって、紡にそのことを指摘されるまで、気づかなかったのだから。

「それで、この封筒のなかにわたしの戸籍謄本が入っているってわけですね」
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