Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「ああ。ネメちゃんは鏑木家と絶縁したこともあって、軽井沢に転入届を出す際に本籍地の変更もしていたんだね。軽井沢町の役場でスムーズに手続きができたよ」
「よかったです。本籍が違う場所だったら、戸籍謄本を取り寄せるだけでずいぶん時間がかかってしまいますから」

 たしか、わたしが署名して手渡した婚姻届を提出してくると、夫がひとりで役所に行ったことがある。そのときにわたしの転入手続きも代理で行っていたはずだ。
 もしかしたらあのとき彼が提出したのは、婚姻届ではなくて、わたしの転入届と転籍届のふたつだけだったのではなかろうか。実家から除籍された両親のことを考えて、わたしの本籍地を夫がこの軽井沢に新たに置いてくれたと考えるのが自然な気がする。

「つまり、須磨寺はネメと法的に結婚していない、ということか?」

 わたしがバツイチじゃない可能性を知ったアキフミが、信じられないと目を丸くしている。

「きっと――彼ははじめからそのつもりで、彼女をここに呼んだんだろうね」

 見てごらん、と紡が封筒から取り出した戸籍謄本を前に、わたしはああ、と感嘆の息を吐く。
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