Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
思考の海へ沈みそうだったわたしを拾い上げるアキフミの問いかけに、慌てて首を振る。
なぜ、わたしの新しい本籍地が、“星月夜のまほろば”の三号棟などという中途半端な場所に設定されたのかという、新たな謎。
山林を切り拓いて建てられた五棟のログハウス風のコテージのなかでも、中央に位置する三号棟は大理石の浴室にあるおおきな窓から絶景が見られることで人気のある二階建ての建物だ。二階にあるせり出したウッドデッキのバルコニーでは森林浴をしながらバーベキューを楽しめるおおきなスペースを有しており、週末や夏休みは連日家族連れの利用で賑わっている。吹き抜けの天井が印象的な一階部分のリビングと備え付けのキッチンも今風の造りになっている。仕事で何度も清掃に入ったことはあるが、実際に宿泊したことはない。そんな場所が、なぜ本籍地に?
「そこに行ったら、見つかるんじゃないか」
「え」
「彼が隠した、遺言書」
ぽつりと零したアキフミの言葉に凍りつくわたしに、紡も頷く。
「俺もそう思う。喜一さんがネメちゃんの新たな本籍地にした場所に、遺言書を隠したんじゃないかな、って」