Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
* * *
途中、軽食をはさみつつ午後三時までショッピングを楽しんだわたしたちは、そのまま軽井沢駅から車ですぐのところにある雲場池に行った。王道観光スポットなどと呼ばれる軽井沢の雲場池だが、恥ずかしながら三年間暮らしているにもかかわらず一度も訪れたことがなかったのだ。
「それは仕方ないだろ、屋敷のある北軽井沢で無免許で暮らしていたんだから、そう簡単に出歩けなかったわけだし」
「買い出しや夫との付添で旧軽井沢方面は何度も行ってるんだけど、新軽井沢や開発が進んだ中軽井沢のリゾート地の方って実はよくわからないの」
「それじゃあ、これからもたくさんデートしようか……お互いの仕事の合間に」
「うん!」
落葉松や紅葉が青々と茂るなか、水鏡が美しい雲場池の景色と、マイナスイオンを満喫しながらわたしとアキフミは手をつないで池の周囲を散策する。ひとまわりするのに三十分弱という散歩コースにはカメラや画材を片手に持った観光客の姿も目立つ。それでも中途半端な時間帯だからか、混雑はしていなかった。野鳥のさえずりや、木漏れ日に癒されながら、わたしとアキフミは森林浴を楽しんだ。
陽光に煌めく水面は水鏡と呼ぶに相応しく、はじめて見たわたしを圧倒させた。