Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「別荘管理人っていったら使用人とそう変わりないじゃない? 下品な格好して礼文さまを篭絡しようとするなんてあざとい女。礼文さまは紫葉リゾートの新社長としてこれから輝かしい業績をあげていくお方なのよ。そんな彼の隣に相応しいとは思えないわ!」

 ピアニスト時代にも誹謗中傷はあった。けれどもこんな風に目の前で騒がれたことはなかったから、わたしは凍りついていた。
 みすぼらしい、使用人のような女……彼女の目からすると、わたしはアキフミには不釣り合いなのだろう。ミニスカート姿はあざといのだろうか、彼がせっかく選んでくれたのに。
 そうだ、彼はこの先ずっと社長として生きていくひと。わたしみたいな隠居した世捨て人が彼の隣にいることは、世間的には難しい、許されざることなのだ。
 目の前の自信満々な女性を見ていると、悔しいけれど、分不相応という言葉を痛感する。

 アキフミはわたしを愛していると言ってくれた。
 アキフミはわたしじゃないと結婚したくないと言ってくれた。
 それはなぜ?

 ――ネメちゃんは、金の生る木だ。

 紡の言葉を思い出し、胸がずきんと痛みだす。
 遺産目当てでわたしに近づいてきた正直な彼とアキフミは違うと思っていた。
 けれど詩の言葉が、わたしを疑心暗鬼に駆り立てる。
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