Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
monologue,4
想いを託されたシューベルト《1》
俺が助け舟を出す間もなく、ネメは詩を退散してしまった。
さんざん心もとないことを言われたというのに、彼女は毅然とした表情で「言いたいことはそれだけでしょうか?」と反論をはじめたのだ。
顔を真っ赤にして言い返す詩と、それを面白そうに観察する妹、そして平然と「アキフミは腐った音が嫌いなの」とダメ押しの一言を口にするネメ。
「……今日のところはここで勘弁してやるわっ、覚えてなさいっ!」
まるで悪役のような捨て台詞を残して、詩と詞の姉妹は俺たちの目の前から姿を消してしまった。きょとんとするネメを見て、俺は思わず笑いだしてしまう。
「ちょ、ちょっとアキフミ。聞いていたなら何か言ってよ!」
「言わなくても、大丈夫だったじゃないか」
「だ、だけど……」
「――悪かった。お前を不安にさせてしまったな」
緊迫状態を脱したからか、ふぅ、とネメが椅子にくずおれる。そんな彼女を見て、まだまだ自分は彼女を守れていないなと痛感する。
「俺がこの場で黙らせたところで、きっと彼女はお前に牙を剥くだろう? だから俺はお前の出方をうかがったわけだが」
「うん……そんな気がした。だから、逃げなかったよ?」