Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
想いを託されたシューベルト《2》
月曜日の天気は雨だった。午前中に屋敷内で雑務を終わらせた俺とネメは、“星月夜のまほろば”三号棟の鍵を手に、ぬかるんだ山道を歩いている。木陰に咲いている瑠璃草のちいさな青白い花も、雫に濡れて寒そうに見えた。
世間ではそろそろ夏休みがはじまる頃合いだが、今年は梅雨前線がなかなか動かず、ネメと出かけた土曜日の五月晴れが嘘のように、昨日からふたたびじっとりとした霧雨の日がつづいている。
「あーあ、なんだかさんざんな天気ね」
「仕方ないだろ、まだ梅雨が明けていないんだから」
この日のネメは白と水色のストライプシャツにデニムという動きやすそうな恰好をしていた。体中にまとわりつくような雨のせいで、すでにシャツがしっとり濡れていて、なかの下着がうっすら浮かび上がっているのが心臓に悪い。そのことに気づいていない彼女はすたすたと前を歩きながら、空模様を憂いている。
「天気予報だと夕方までに一度やむみたいだけど、暗くなるから戻るときは懐中電灯があった方がいいかもね」
「戻るつもりなのか?」
「え」
「添田に本日月曜から一泊二日、ふたりの利用ってことで利用者名簿にチェックさせておいたから屋敷に戻る必要はないぞ」
「で、でも」