Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

「これも俺の仕事だ。自分が管理している別荘の人気物件を実際に利用することで、不満な点や必要だと求められるものを理解できる。いわばモニターみたいなものだ」

 いかにもそれらしい理屈を挙げているが、俺はネメとふたりきりで一晩を過ごしたいだけだ。
 訝し気な表情を向ける彼女は、不承不承頷いたが、どこか不服そうにこちらを見つめている。

「それで、ふたり?」
「俺がひとりで泊まったところで、楽しくもなんともないだろ……俺はネメとふたりでゆっくりしたいんだから、な」
「な、じゃないでしょ……! 当初の目的は夫の遺言書を探すことで」
「だからそれも一緒にするんだよ。ネメだって雲場池のカフェテラスで言っていたじゃないか、目星がついているって」
「あれは……勘みたいなものだから」

 ネメが俺に言った遺言書の在り処の候補は二か所。
 ひとつは玄関先の重たい木彫りの置き物の下、そしてもうひとつがリビングの壁に飾られている額縁の裏だ。
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