Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

   * * *


 着ていたものを洗濯用の籠に入れた俺と彼女は、コテージに備え付けられていた就寝用の淡いピンク色のガウンに着替えてリビングの壁に掛けられた一枚の絵画を眺めていた。

「この絵は?」
「たしか、夫のお兄さんが趣味で絵を描かれていたって……」
「うまいな」
「だけどすこし、さびしそう」

 木の壁に飾られた一枚の絵画には無人のピアノが描かれていた。鉛筆画かと思ったが、近づくと油彩であることが理解できる。無機質だが、誰かを待っているようにも見えるその絵は、ネメの言うとおり、どこか哀愁が漂っている。
 ほとんど白といっていい背景に、黒いグランドピアノ。屋敷の玄関ホールにあるグランドピアノを模写したものだろうか。
 須磨寺の兄が生前に残した絵だとすると、だいたい二十年ほど前の作品になる。別荘地を引き継いだ弟が兄の証を遺すために飾ったのだろう。他のコテージにも須磨寺の兄が描いたという山野草のスケッチや風景画などが建物の雰囲気を壊さないようにひっそりと飾られているという。

「彼がこの場所をわたしの本籍地にしたのは、このピアノの絵があったから……?」

 三号棟のコテージにピアノの絵。
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