Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 俺の両手に収まるサイズのダークオークの額縁の裏側には、絵画を封じた際に留める四つのピンだけでなく、ちいさな小指の爪ほどのサイズの鍵穴が空いていた。

「隠し扉、みたいな感じなのかも」
「ネメ、鍵はこれでいいのか?」
「うん……って、わたしが開けるの?」
「当たり前だろ。遺言書はお前宛だって添田が言っていただろ。俺が手にしたところで意味はない。お前が見つけて、最初に読むことで、遺言書は効力を発揮する」

 遺言書に書かれている内容次第で、俺とネメの結婚への道筋も変わるだろう。
 ただ、ネメの婚姻届を出さないまま、彼女の意志を尊重しつづけた須磨寺のことだ、きっと悪いようにはならないはずだ。
 だから俺はそっと、額縁の鍵穴を彼女に差し出す。
 ネメはこくりと頷いて、屋敷から持ち出した額縁の鍵をそうっと差し込む。
 カチッ、という音とともに、額縁の裏面の木の一部が外れ、なかから真新しい、桜色の封書が現れた。


 ――『遺言書』


 ネメはほんとうにあった、と驚きながら、須磨寺が隠した遺言書の封筒を抱きしめる。
 そんな彼女を、俺もまたきつく、抱きしめる。
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