Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
彼はネメのことを身近な人間の間では後妻扱いしていたが、世間からは隠したまま、逝ってしまった。莫大な遺産を相続することになった彼女を試すべく、雲野の倅がちょっかいを出してきたわけだが、俺とネメのことを知ったからか、一緒に遺言書探しをはじめたことで彼の態度は軟化、結局壺三つとひざ掛けとネクタイピンふたつという形見分けで落ち着き、残りは遺言書にあるとおり――ネメごと俺に託されることになる。
「羨ましい?」
「俺が死んだときも、そんな風に泣いてくれるか?」
「なんでアキフミが先に死ぬのが前提になってるの!? やめてよどこかでへんなキノコでも食べたの?」
「食べてないって……」
泣きたいのは俺の方だ。
前の夫にこんな風にお膳立てさせられて、躍らされて、彼の想い通りにネメを動かして。
俺は土地とピアノとネメを彼から託されてしまった。そうなるように努力した結果だと素直に言い切れないのがなぜか悔しい。
それなのにいま、こんなにも彼女が愛おしくて。
俺はつい、余計なヒトコトを口にしてしまう。
「だけど、お前のことはもっと食べたい」
「……それいま言う?」