Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
ただ、彼が自ら紫葉リゾートの社長の座を奪い、この土地とピアノを押さえた原因はわたしにあるのだと彼は囁いていたから、わたしは愛人に甘んじていた。アキフミははじめからわたしを花嫁に迎えたかったみたいだけどそのときのわたしはバツイチの未亡人になったばかりだと思っていたから、そこまであたまが回らなかったのだ。
けれど、いまは違う。
「これからは一緒に生きていこう、ネメ――俺の妻になってくれ」
カレーチャーハンのお皿をシンクに置いて、アキフミがわたしの前へ跪く。
彼の何度目かわからない求婚に、わたしは苦笑しながらこくりと頷いて。
「わたしも、彼方じゃないとダメみたい」
ちいさな声で、応じるのだった。