Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
シューベルトと婚約の試練《2》
夫の遺言書を無事に発見し、アキフミとやさしい一夜を過ごした朝。
わたしはコテージのキッチンに立ち、慣れない朝食づくりに悪戦苦闘している。
「無理しなくてもいいのに」
「き、昨日はアキフミが作ってくれたから、今日はわたしが作るの!」
冷蔵庫のなかには月曜日の午前中にアキフミが手配しておいてくれた食材が詰め込まれていた。地元で採れた新鮮な葉物野菜や卵、ショルダーベーコンに新鮮な牛乳、旬のフルーツ……ふたりで食べきれるか不安になるほどの量だったが、彼は余ったら屋敷に持って帰るから心配するなと笑っている。
彼を驚かせたくて、わたしは一人暮らし時代によく調理した簡単で見目のよい目玉焼きを作ることにした。アキフミが屋敷から持ち出していた着替えと一緒に用意されたエプロンをつけて、準備をはじめる。
まずはベーコンを横長に切って半分にしたものをずらしながら円形の型をつくり、フライパンで固める。そこへ卵を割り入れて水を入れたら蓋をして待機すること約三分。卵の白身が固まったら塩コショウで味付けをし、器に盛りつけて完成。
かわいらしいベーコンカップに入った目玉焼きを見て、アキフミが感嘆の声をあげる。
「器用だな」
「そんなことないよ。目玉焼きの応用だもの」