Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
シューベルトと婚約の試練《3》
東京駅に到着すると、改札口でアキフミの秘書の立花が待っていた。本日の会食場所兼わたしたちの宿泊場所となるホテルまで車で送ってくれるという。西陽が眩しい午後五時の雑踏を横目に、わたしとアキフミは荷物を車に乗せていく。
「わざわざすまない、立花」
「いえ。須磨寺氏の遺言書が無事に発見されたことで、こちらも希望の光が見えてきました。章介社長と奥様との会食で音鳴さんを紹介したのち、このまま婚約発表までスムーズに行いたいと」
「こ、婚約発表……デスカ?」
結婚の許可を得て、とりえず入籍だけ済ませ、相続の手続きに戻るものだと思っていたわたしは、立花の言葉に目が点になる。わたしの反応を見て「お話されていなかったのですか?」と恨めしそうにアキフミを見つめる彼女を前に、彼は「言わなくてもわかっていると思っていたんだ」と悪びれもせず言い返す。
「アキフミ、言わないとわからないよ……」
「そのようだな。では今から言っておく。三日後にグループ会社のお偉い方が揃うパーティがある。俺はそこでお前との婚約を表明する」
「……するつもりだ、じゃなくてする、なんだね」
彼のなかでは決定事項になっていたらしい。わたしはもはや呆けた顔で彼を見つめることしかできない。