Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 いいよ、なんて言わなくてもきっと、彼はわたしに背負わせる。わたしに断る気がさらさらないことを知っているから。
 それがたとえ。

「お前の鳴らす音で、世界を驚かせろ」

 わたしが考えもしていなかったことでも。

「鏑木壮太の娘だからじゃない。鏑木音鳴だからできることをしろ」

 柊ができると言ってくれただけで、勇気を持てる現金なわたしなら。

「俺の分も、いっぱい弾け。楽しめ。そうやって選べ。自分がやりたいことを」

 そうやって生きていける。柊が叶えられない夢を糧に。わたしが彼の夢を継ぐ。

「……なんて、カッコつけすぎか?」
「そんなこと、ない」

 わたしの声は、少し震えているみたいだ。だけど、彼の言うことはカッコ悪いことじゃないから。

「そんなことないよ!」

 精一杯、頷いて応える。

「だって」

 さっき、連弾したときに決めたんだから。

「柊あのね……わたしが、シューベルトと恋に落ちた女の子だったら」

 お金がないから結ばれないなんて許さない。時代背景なんか無視して、駆落ちでもすればよかったのに……なんて、身勝手な考えかもしれない。だけどわたしはきっと。
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