Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
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そして運命の日。
パーティーがはじまるのは夕方からだが、わたしはアキフミの母親から呼び出され、昼食後からドレスに着替えさせられ、ホテルの美容室の椅子に長い間座らされていた。
「一世一代の晴れ舞台なのに、その格好じゃあ舐められるわよ。スタイリストにお願いしたから貴女の美しさを最大限生かしてもらいなさい」
アキフミに抗議しようとしたが、彼も今回は母の味方らしく「キレイになってこい」とわたしを美容室に残していなくなってしまった。時間があればもう一度スタジオに戻ってピアノのおさらいをしたかったのに……
だが、ここ数日の猛練習で身だしなみを疎かにしていたのも事実だ。大勢の客が集まるパーティーの席でくたびれた女がピアノの演奏を行ったところで、社長の妻だと認めてもらえないだろう。アキフミの母のように常に美しく自信満々でいなければ、周りを圧倒させることはできないのだ。
……とはいえ、丹念なシャンプーとトリートメントをされた後に美容室の椅子に座って数分もしないうちにわたしは眠っていたらしい。リラックス効果のある甘酸っぱいグリーンアップルの香りは、軽井沢の緑いっぱいの空気のようだった。