Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
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パーティーがはじまり、紫葉グループ総代表紫葉不動産社長を讃える声とともに乾杯の音頭が取られる。ピアノを弾くわたしはノンアルコールのシャンパンをアキフミに持ってきてもらったが、いつ自分の出番が来るのかわからない緊張で口にしても清涼感を味わえずにいた。
客層はモノトーンカラーのスーツを着た男女が大半だったが、晴れ着姿やフォーマルなカラードレスを着た若い女性の姿も目立つ。もしかしたら彼女たちはこの場で素敵な出逢いを期待しているのかもしれない。アキフミの花嫁探しの噂は収束しつつあると立花は言っていたが、実際にわたしたちが婚約を報せない限り、社長夫人の座を狙う女達が素直に身を引くことはないだろう。
それだけ、アキフミは注目されていた……良い意味でも、悪い意味でも。
一部の人間からは義姉から会社を奪った後妻の連れ子、と腫れ物にふれられるような扱いを受けているにも関わらず、アキフミは平然としていた。その隣にいるわたしのほうがおどおどしてしまい、逆に不審がられる始末だ。
そして宴の中盤、ほどよくお酒が入ってきたところで、わたしは章介に名を呼ばれた。
「こちらの美しい女性が、息子の選んだ花嫁としてふさわしいか、皆様にジャッジしていただきましょう」