Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
「シューベルトの妻になる……だから、アキフミ、わたしに託してくれる?」

 自分から、動けばいい。鳴らせばいい。
 鍵盤の上で今か今かと待機していた指を、再び滑らせる。柊も、それに続く。

「いいと思うぜ。シューベルトの妻」

 観客のいない舞台の上で、わたしと柊は奏で続けた。
 未来へと繋がるグラン・デュオ、を。


   * * *


 若かったふたりはこの先どんな困難があっても、大丈夫だと思っていたんだ。
 アキフミはそう遠くない将来、ピアニストになったわたしに逢いにいくよと誓ってくれた。
 初恋は実らない、なんて言うけれど、そんなことはけっしてないと、わたしが世界で活躍するピアニストになったらそのときまでに、自分と一緒に並んで人生を歩めるようにたくさん働いて、お金を貯めて、ネメにふさわしい男になるって。

 彼を信じていたかった。
 だけどわたしはその日が来る前に、夢を壊してしまった。

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