Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
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順風満帆だったわたしのピアノ人生が壊れたのは、誰のせいでもない。わたしが弱かったからだ。
スタジオでの収録中にその一報はもたらされた。
『オーストラリア航空、ウィーン発東京行きのボーイング型機がロシア上空にて炎上、緊急着陸を試みるも海へ墜落、乗員乗客およそ180名の安否不明……』
その日はわたしの二十三歳の誕生日の前日だった。一緒に誕生日を祝おうと、両親がその日のために帰国すると決めてくれたのが嬉しかったのをよく覚えている。
乗客名簿のなかに、両親の名前が含まれていた。
テレビの画面越しに見た、黒焦げになった機体の惨状から、誕生日を祝ってもらう約束は叶わないのだなと、悟ってしまった。
――そのときから、自分の心にちいさな空洞が生まれたような気がする。
骨も遺品もないなかで行われたささやかな葬儀。嘘っぽくて、涙も出てこなかった。まだ、ふたりが海外で演奏旅行をしているような気がして。そんなわたしをマスコミは面白おかしく取り上げた。悲劇の天才女子大生ピアニスト、なんて。