Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
シューベルトの妻《2》
最悪なグラン・デュオ。自分だけで弾くならまだごまかしがきく。だけど、これは四手のためのピアノソナタ。要するに連弾。
パートナーに選ばれた柊が練習初日で絶望にも似た表情を見せたのは、当然のことだと思った。それだけわたしのパートは乱れていた。
グラン・デュオ。
それは三十一歳の若さでこの世を去ったシューベルトが晩年に作曲した連弾用のソナタ。シューベルトの連弾曲はコンクールの課題曲に使われることも多い。だからピアノを学ぶわたしたちの練習曲としては定番なのに……なんで、こんなに弾けてないの?
今日、初めて弾いたわけでもないのに。いつもなら楽々弾きこなせるのに。
愕然として、鍵盤に目線を落とすわたし。無言で、そんなわたしを見つめていた彼は、溜め息混じりに口を開く。
「鏑木、音楽なめてねぇか?」
「……自分でもそう思う」