Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
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それは俺がまだ柊礼文だった頃。
母子家庭で育てられた俺は、双子の弟の世話を見ながら学校に通っていた。母が買ってくれた玩具のピアノが俺の人生の最初の転機。その後、音楽の魅力に取り憑かれた俺は放課後の音楽室でほぼ独学でピアノを学び、母親を説き伏せて県立芸術高校へ入った。途中、吹奏楽や軽音楽もかじったが、俺には鍵盤楽器が一番性に合っていた。
将来のことはあまり考えていなかった。バイトをしながらピアノやキーボードを弾く日々に満足していたから。
いま思えば、あのときもっと将来についてしっかり考えていればよかったと後悔してしまう。
ピアノにかかわる仕事をしたいと、漠然と思うだけでなく。
結局お金が足りなくなって、俺は高校を中退した。十七歳の夏だった。
そのときに、俺は恋をしていた。一緒に授業で課題曲を連弾した、同じクラスのどこかきどった女子に。