Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
調律師になったシューベルト《4》
須磨寺の屋敷での三度目の調律の前に、俺は紫葉リゾートの社長の椅子を義姉から譲ってもらった。須磨寺の妻がネメであろうがそうでなかろうが、俺が別荘地の売買に直接口を出せる立場になれば、あの土地も三台のピアノも守ることが可能になるからだ。
初恋の想い出を拗らせた俺の無謀な行動に、双子の弟たちは愕然としていたが、義姉の秘書になぜか共感され、晴れて俺は自分の思い通りに事業を進めるだけのちからを手に入れたわけだ。
一族が経営している会社組織の下剋上に、関連企業はざわめき立ったが、もともと過労気味の義姉に代わって再婚先の連れ子が業務を引き継いだだけだと知ると、やがて何事もなかったかのように騒ぎは落ち着いた。
軽井沢、嬬恋エリアのリゾート開発にちからを入れていた義姉が目につけていた“星月夜のまほろば”についての詳細な資料を入手したことで、疑いは確信へと変わりつつあった。