Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
パトロンは愛人、愛人は花嫁、新郎のいない花嫁ひとりだけの写真……
「あの写真は」
「奥様でございます。口うるさい親戚を黙らせるため、主人が用意させました」
やはりあのとき須磨寺の屋敷で見た花嫁の写真は、ネメだったのか……
けれどもその理由が、口うるさい彼女の親戚を黙らせるためのものだったとは。
「彼女は両親を失い、実家を親戚に明け渡し、ピアノだけを死守して軽井沢へやって来ました。主は彼女を守るために結婚という契約を持ちかけ」
「……悔しいな」
なぜ、俺ではなかったのだろう。
悔いたところで仕方のないことなのだが、俺はつい零していた。
「ただ、主は彼女を前妻の身代わりのように扱っております。若い頃の峰子さまにそっくりだからだと」
「! それで彼女は、満足しているのか」
「存じません。ふたりの間に肉体関係はないようですので」
さらりと爆弾発言をする添田に、俺は絶句する。
たしかに祖父と孫の年齢差ほどあるふたりのあいだに、肉体関係など……考えたくもない。
だが、その言葉に救われたのも事実だ。
「ならば――別の意味で、満足させればいいのか」
須磨寺亡き後、俺が土地とピアノもろとも買い取れば、ネメの処遇も俺に委ねられる。
彼女に行く宛はない。もし軽井沢から出ていくというのなら、父親の形見だというピアノを人質にして引き留めよう。
そして別荘管理人として引き続きこの土地に残し、彼女を俺なしではいられないように、身体で繋ぎ止めて、調教してしまえばいい。