Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
骨になった夫はとても軽い。
応接間の、峰子さんのピアノのとなりに祭壇を設置して、骨壷を置く。
わたしは「安らかな眠りをお祈りいたします」と言いながら帰っていく参列者をひとり、またひとりと見送った。そのなかに調律師の紫葉の姿はない。何も言わずに帰ってしまったのだろうか、ときょろきょろ視線を動かせば、真剣な表情で添田と話している彼の姿が見つかる。いったい何を話しているのだろう……?
やがて、添田が部屋からはなれ、彼がくるりとこちらを向く。琥珀色に見えた瞳の色は、今日は漆黒だった。黒はレイヴンクロウのアキフミを彷彿させる色。まるで死者を迎えに来たワタリガラスのように見えて、わたしの心臓は早鐘をうちはじめる。
いつの間にか、応接間にいる人間はわたしと紫葉のふたりきりになっていた。
ゆっくりと、こちらに近づいてくる。
わたしは思わず顔を俯かせていた。夫を亡くしたばかりなのに、彼にときめいてしまう自分がいたたまれなくて。
だってだって、いま目の前にいる彼はこんなにも。
「ねね子さん……いや、ネメだろう?」