Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
シューベルトと初夏の愛人《2》
「――もう二度と、お前を他の男のモノになんかさせないからな」
抗おうと思えば抗えたはずなのに、わたしはアキフミの口づけを受け入れていた。死んだばかりの夫の骨が置かれた部屋で、わけがわからないまま、若い男に求められて、きつく、きつく抱き合っていた。
喪服のスカートがくしゃくしゃになることも気にしないで、逞しい腕に身体を締めつけられたわたしは、アキフミからのキスに翻弄されつづける。
「ゃ……ダメ、こんな、ところで」
「ネメ。いまからこの屋敷の主は俺だ。おとなしく、俺の言うことをきけ」
「はぅ……ン」
高校時代は唇をふれあわせるだけのキスだったのに、九年経ったわたしたちは、そこから先の、舌先と唾液を絡ませる深いキスをしている。やり方なんかわからないのに、アキフミに舌を差し出すよう要求されて、吸い取られて、甘い疼きを与えられてしまう。
夫との間でキスをしたことはなかった。肌を重ねたことも。「白い結婚」という言葉があるが、まさにわたしと夫のためにあるような言葉だと思っていた。