Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
わたしが親族間でつまみ出され、ピアノだけを持って絶縁し、たったひとり彷徨っていたのを拾ってくれた夫のことを知って、アキフミは悔しいけれど、感謝していると言った。
だからこれからは夫に代わって自分がネメの傍にいたいと、アキフミは一息に告げる。
「お前が須磨寺のことを悪く想っていないことも知っている。けれど、俺はずっとずっとお前が欲しかった。心が彼の方に向いているのなら、俺の方に向くまで待ってやる」
夫を亡くしたばかりのわたしを悼むように、アキフミは言い放つ。けれど、そのつづきの言葉に、わたしは絶句する。
「が、身体の方はそうもいかない……これから一緒に別荘管理の仕事をしながら暮らしていく。そのことを考えると、この先、俺の劣情を沈めてくれるのは、お前しかいないんだ」
「?」
わかるな? と目で訴えられてもわたしは理解できずに硬直する。
つまりこの男は、わたしの心が自分に向いていなくても、身体だけは自分のモノにしたいと、そう言っているのだろうか。夫を亡くしたばかりのわたしに、身体で慰めあおうと?
「つまり、アキフミは……この土地とピアノを守ってくれる代わりに、わたしの身体が欲しいの?」
「ネメ?」
「……別に構わないよ」