Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

シューベルトと初夏の愛人《4》




 プロテスタントにおける葬儀後の儀式は、昇天記念日に記念集会を行って祈りを捧げることになる。一週間、十日を目安に行うものだと添田は言っていたが、一ヶ月でも構わないだろうというアキフミの言葉で、一月後に教会で夫の記念集会を行うことになった。その際に、教会墓地へ骨を納めることも決定した。

「アキフミは、キリスト教徒なの?」
「いや。ただ、冠婚葬祭の場に出ることは多いから」
「なるほど。社長になると、その手のおつきあいも増えるのね……」

 夫が亡くなって一週間が経過した。アキフミによって軽井沢の土地とピアノは買い取られたが、わたしをはじめ、添田や家政婦たちはこの場を追い出されることもなく、変わらない日々を過ごしている。唯一異なるのが、夫の代わりに若き主人と呼ばれるようになったアキフミが、わたしを傍に置いてともに生活をはじめたことくらいだ。
 アキフミは最初の夜のようにわたしを抱くことはなかったが、ことあるごとにスキンシップをはかるようになっていた。身体に無理をさせたくないからと、ここ数日はキスとハグでふれあっている。
 なんだかおおきな犬に懐かれてしまった気分だ。

「そういうお前は?」
「洗礼は受けてないわ。強制もされてない」
「けど、須磨寺とは教会で式を挙げたんだろ?」
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