Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
そう考えると、余計に惨めな気持ちになる。
愛人にして傍に置いてもらいながら、彼を満足させられないなんて。これじゃあ愛人失格ではないか。
夫を亡くしたわたしを同情しているだけなら、やさしくしないでほしい。甘い言葉とそのぬくもりに溺れてしまったら、彼に迷惑をかけてしまう。きっと彼はこの先華やかな世界に飛躍して、周りから認められるような素晴らしい女性を妻に迎えるだろうから……
「なあ」
アキフミの方が背も高いし容姿端麗だしいまのわたしなんかより舞台映えするはずだ。セミプロレベルのピアノ技術を持つ調律師で、社長にまでなった彼の存在こそ、マスコミが喜びそうなネタだと思う。もしかしたら既に婚約者がいるのかも。
わたしに関係を迫ったのは、“星月夜のまほろば”を手に入れる際に初恋の想い出を利用したかったからか、これ以上約束を燻ぶらせず、すっきりさせたかったか……どんどん悪い方向に想像力が振り切れて、わたしはひとり悄然とする。
「おい、ひとのはなし、きいてないだろ」
「……あ。なに?」
「ったく……ネメは、もう一度コンサートホールの舞台に立ちたいと思わないの?」
「夫と同じこと言うのね。わたしはもう隠居して別荘管理人として余生を送るって決めたの」
「……そう、か」