Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
夫の死後、屋敷の主となったアキフミは当然のようにわたしの傍で暮らしはじめた。夫が使っていた介護用の電動式寝台を空き部屋に移し、客間の寝台をわたしの寝台の隣に置いて、寝起きをともにするようになった。寝室のピアノを我が物顔で毎日奏でる姿も、十日も経てば当たり前の風景と化していく。
別荘地の管理と開発をいつ行っているのかよくわからなかったが、なんてことはない、彼は屋敷にいながら仕事もこなしていたというわけだ。むかしから器用な男だと思ったが、大人になったいまも自分に厳しく動き回っているらしい。このままでは身体を壊すのではないかと心配になってしまうほどに。
「ちゃんと休んでよ?」
「ああ……」
軽井沢から車で一時間四十五分かかる松本に紫葉リゾートの長野支店はあるという。書類を渡すだけならメールやFAXでことたりるはずなんだけどなぁとうんざりしていたアキフミだったが、義姉からの引き継ぎが完全に終わったわけではないため、時折全国各地の支店へ顔を見せに行くのだという。添田は夫が死ぬ前から彼とコンタクトを取っていたらしく、松本へ行くのは三度目とのこと。
「添田さんもいつの間にはなしをつけてらしたんです? 夫もグルってことですよね?」
ぷぅ、と頬を膨らませるわたしに、アキフミが笑う。