Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―
「それはどうかな。彼らは俺の一方的な要求に、快く取引してくださったビジネスパートナーだから」
添田にはあたまが上がらないのだという。須磨寺一族の土地を夫の兄の代から傍で手伝っていた添田に、アキフミは次の主として無事に認められたのだろうか。無口な添田はわたしの文句も柔らかい笑みで返しただけで、口を滑らせるようなことはしない。
自分だけが手のひらの上で躍らされているみたいだ。けれど、無理に躍らされているとはいえ、いやだと感じることはない、心地よさが、わたしを惑わせる。
――アキフミは、はじめからわたしがこの土地に縛られていると思って、夫が死ぬ前から“星月夜のまほろば”に探りを入れていたわけではなかったのだ。もともと義姉が目をつけていた土地を、偵察がてら調律師として訪問した彼が、そこでウェディングドレスを着たわたしの写真を見つけたことが、すべてのはじまり。グループ内で下剋上と呼ばれた紫葉リゾートの社長交代劇は、あのときアキフミがわたしの写真を見つけなかったら起こらなかったのかもしれない。
「一方的な要求?」
「ネメ。お前のことだよ」
「……さらりとこわいこと言わないで」
紫葉リゾートの若社長は「こわがらなくてもいいのに」とわたしの手をきゅっと握りしめる。