Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―

 そんな風にやさしくされたら、夫と過ごした穏やかな日々を裏切ってしまいそうでこわいのだと言いたいのに、彼は素知らぬ顔をして告げる。

「いまは愛人でも、民法の定義で百日経てば死別後の再婚がおおっぴらに可能になる」
「……わ、わたしと結婚するつもりなの!?」
「シューベルトの妻になる、って言ったあのときの約束をどうにかして叶えたいと思っているのだが」
「莫迦じゃないの?」

 夫が死んですぐに、他の人間に奪われないように土地とピアノを買い取り、わたしを愛人にした彼は、問題なければすぐにでもわたしと結婚しようと考えているらしい。信じられない。なんで、そこまで……?

 けれどその話は、タイミング悪く目的地に到着したことで、あやふやになってしまったのだった。
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