【コミカライズ化】異世界で絶倫魔導師に買われたらメチャクチャ溺愛されています。

6.背の高い美貌の男に買われましたか?

(私が競りにかけられているの!? そんな……)

 朦朧とする意識の中、信じられない状況に驚愕する。
 勝手にひとを商品扱いするなんて考えられない。

「ちょっと……ま……」

 起き上がろうとするが、手足に力が入らない。
 それどころか下腹の奥がムズムズとして、なんともいえない気持ちになる。

(やだ……どうしたんだろう? なんか……ヘン……)

 身体も熱を宿しているみたいで、皮膚が焼け付くように感じた。
 受ける異常に、どうしていいのか混乱していると、勝手に競りの価格が上昇していく。

「出ました! 80万ルピ! ほかにはいませんか?」

「80万か……相場より高いな」

「どうするかねえ」

 ざわざわとした喧噪を打ち消すかのように、明瞭でしなやかな男の声が入り込んだ。

「私が90万ルピ出そう」

 競りに参加していたひとたちが、一斉に振り向いてその男に視線を向ける。
 凛も身体の熱に浮かされつつ、その男を見た。

(わぁ……すごく……顔の整った……)

 背が高くて、筋肉質な身体をした美貌の男が、息を切らせて立っていた。
 銀糸のような髪が乱れており、うっすらと汗をかいているのが頬に数本張り付いている。

 凛がこの世界にきて、ここまで整った顔立ちの男性を見たことがない。
 それほどまで、そのひとは神々しかった。

 はっきりいって路地裏の小汚い奴隷市にくるような感じのひとじゃない。
 そのうえ、競りに参加しそうにないのだが。

(性奴隷を買うようなひとに見えない……でも……)

「ほかになければ、その娘は私のものだ。そこから出せ」

 カツカツと足音を鳴らす、美形の男が檻に近づいてくる。
 間近で見ると、男前度がもっと増した。

(いやいやいや。イケメンとか男前とか美形とかステキとか、言っている場合じゃないのよ。私、このひとの夜のおもちゃとして売られちゃう……!)

 本来なら身の毛もよだつほど恐ろしいことなのに、なぜだか嫌悪感が沸かなかった。
 下腹の奥……両脚の間が、きゅうんっとなり、下着越しになにかが溢れ出るような感触もある。

(な、なに……身体が……やだぁ……)

「おい、さっさと出せ」

 美形の青年が、奴隷売買人に向かって威嚇するようにそう言う。

「は、はい。お待ちを」

 売買人が鍵を解錠しようとしたら、どこからか楽しそうな声が聞こえてきた。

「えぇ? たった90万ルピ? 安っすいなあ。嘘だろう?」

 少し離れたところで、細身の男が木樽の上に腰かけ、足を組んでいた。
 金色の巻き毛を指先でクルクルともてあそぶと、気だるげに首を傾げる。

 その男も絶世の美男子といえた。
 だが見るものをゾッとさせるほど壮絶な色気と、纏う陰鬱な雰囲気が、彼を得体の知れないものに見せる。

「そのお嬢さん、なんど見ても珍しいよねぇ? 黒曜石みたいな髪と瞳をしている。もっと価値があるんじゃないかなぁ」

 その男がスラスラとそう述べると、なぜだか競りを諦めていた客たちが活気づいた。

「そうだ、そうだ! 90万ルピ程度の娘じゃない。おれは100万ルピ出すぞ!」

 ヒゲだらけの体毛まで濃そうな男が、突然そう叫ぶ。

「私はプラス10万よ! 毎晩客を取らせたら、すぐに元が取れるもの」

 胸の谷間を、これでもかと強調しているドレス姿の女性が売買人に言い寄った。
 金色の巻き毛の男が、嬉しそうに笑う。

「そうそう。いい感じ。ふふっ……高値で売れるといいねえ」

 銀糸の髪をした男が、ギュッと眉間に皺を寄せた。
 口角を歪ませ、金髪の巻き毛を睨みつける。
 金髪の巻き毛は肩を竦め、すぐにその場を立ち去った。

 銀糸の髪の男は、奴隷売買人に向かって明瞭にこう言った。

「200万ルピを出す。どれだけ値をつり上げようとも、私はそれの上の額を提示する」

 よく通る低い声が、その場を制した。
 あれほど盛り上がっていた客たちが、トボトボと背を向けて去って行く。

 奴隷売買人が、揉み手をして銀糸の髪の男にすり寄っていった。

「ありがとうございます。その……疑うわけではございませんが、200万ルピはお手持ちでございますかな?」

 下手に出ながらも、ちゃっかりと金の有無を確認しくる。
 銀糸の髪の男が睨みつけると、おもねるように肩を竦めた。

「何しろ、相場の4倍という価格でして。その場の勢いやノリで入札されたのでは、lこちらとしても困るものでしてね」

 銀糸の髪をした男は、ジャケットの胸ポケットに手を突っ込んだ。
 札束を取り出すと、ぽいっとソ奴隷売買人に渡す。

「これはこれは。誠にありがとうございます」

「さっさと檻から、その娘を出せ」

「お待ちください」

 ガチャンと鈍い音を響かせ、牢屋の扉が開けられる。
 出てもいいということだろうが、凜はゆっくりとした動作しかできなかった。

「……あ」

 ヨロヨロと立ち上がり、鉄格子を掴んで外に出ようとした。
 その瞬間、足から血の気が引いたみたいに力が抜けていった。

「危ない!」

「きゃ……」

 倒れこみそうになった凜を、しっかりと抱きしめ助けるのは銀糸の髪をした男であった。

(なに……この……感じ)

(なんだ? この娘……不思議な……)
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