私の知らない恋の話。
それからは、全然。
気になるかも、って思っても、浮気されたらって思ったら人のこと信用できなくてダメになっちゃう。
まぁ別に、そもそも気になる人が滅多にできないんだけれど。


「そろそろお開きにしましょうか」


遠くの席の男の子の声で、私たちは伝票を持って立ち上がった。


「……ねぇね、今からどこか行かない?」


店を出てすぐ、真緒くんは私に耳打ち。
あー、高校生だなー、なんて呑気に構えながら、家にいる犬のことが頭をよぎる。


「あ、ごめんね、わたし門限厳しいから」
「そっかー、それはダメだね、じゃあ送って行く……」


「なぎ」


送っていくよ、と言おうとしてくれたであろう真緒くんの言葉を遮ったのは聞き覚えのある声。
家にいるはずの犬。


「もえ」
「帰ろ」
「え、本当に迎えにきたの?」


真緒くんは、あれ彼氏いないんじゃないの?と私だけに聞こえる声で呟いた。


「幼なじみ、家近いんだよね」
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