恋愛偏差値$完
「俺、お前が苦しんでたなんて知らなかった。あのときは、夢に精一杯で気づく余裕すらなくて…」
だんだん顔が下を向いていくお兄ちゃんをあたしは笑った。
下を向くのはお兄ちゃんが恥ずかしがるときのくせ。
「もういいよ、お兄ちゃん。お母さん、今はちゃんと元気だよ。あたし、お兄ちゃんの夢のことなんて知らなかった。ごめんね。それから、助けてくれてありがとう」
「俺こそ」
お兄ちゃんと仲直りできてよかった。
「で。仲直り終わったか?」
ちょーどいいところで伸先輩が輪の中に混ざってくる。
「伸先輩も助けてくれてありがとうございます」
「ん。俺はべつになにもしてねーよ?助けたのはお兄さんだろ」
伸先輩はあたしが忘れていったかばんをあたしに渡してくれた。
「ありがとうございます」
「ガッデーーム!」
またお兄ちゃんが突っ込んでくる。
「柚菜、こんなヤツを彼氏にするなんて許さないからな!」
「は?なんでそうなるんだよ」
あれ。伸先輩、お兄ちゃんにタメグチ?
いつのまに?
「…名前は?」
「あ?…久穏伸」
お兄ちゃんが伸先輩にこそっと言った言葉は聞こえなかった。
自慢げな伸先輩の『まかせろ』って言葉はばっちり聞こえたけど。